インサレーションジャケットの選び方

最近はダウン、化繊のインサレーションジャケットの選択肢が増えてきています。

選択肢が増えるのは良いことですが、実際どれを買えばいいのか迷いますよね。

 

なので、アークテリクスを例に、

①現行のラインナップの内容

②どのような視点で選ぶべきなのか

③アクティビティ別での選び方

 

それぞれをまとめてみたいと思います。

 

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結論を先に書いておくと、インサレーションジャケットは

 

・高強度のアクティビティ

・低強度のアクティビティ(冬の普段着、登山の停滞時など)

・厳冬期の低強度なアクティビティ(ビレイなど)

 

など、異なるアクティビティへ最適化されており、適切なモデルを購入することが必要になります。

 

選ぶための要素は、①表地 ②中綿の種類 ③中綿の量 ④価格 ⑤フードの有無 などになります。

 

今回の記事は、現行のラインナップについて上記条件を分かりやくまとめたうえで、最後の項にて、実際にアクティビティ別でどのモデルを選べばよいかを挙げています。

 

 

 

 

*前回のインナー編はこちら

アパレルメーカー社員による登山・自転車用のインナー考察 - 葦原計劃


 

 

①現行のラインナップの内容

以下の表にまとめてみました。

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モデル名で並べてあります。

*Hoody, Parkaと記載があるものがフード付き、何も書いていないものはフードなしです。

*LT…Lightweight, 軽量モデル、AR…All ARound, 汎用モデル、FL…Fast & Light, UL向け、SV…SeVere Weather, 過酷な環境向け

 

左から順にモデル名、重量(g)、外側の生地、中綿の種類、定価 になります。

この表をパッっと見ても正直良くわからないと思います。

 

次項②にてそれぞれの項目について解説していきますが、何を買えばいいのか知りたいだけの人は③アクティビティ別での選び方まで飛ばしてください。

 

 

 

②どのような視点で選ぶべきなのか

 

☆アウター生地

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アウター生地を種類ごとに塗り分けてみました。

 

東レAratoが幅広く使用されていることがわかります。これは高密度で織られた防風生地です。生地が高密度なことから、ダウンの抜けを防げます。(TheNorthFaceのヌプシジャケットも、東レの糸かはわかりませんが、見た感じ同じような生地を使用しています)

東レTyonoは生地自体が多少のストレッチ性を持っています。

Gore-Texは言わずもがな、通気性のある防水生地です。

Fortiusは通気性が良く、4wayストレッチの生地です。

 

*Dはデニールの略です。糸の太さを表しています。1Dは9000mあたり1gの重さの糸を表しています。

要するに、数値が大きいほど太い糸を使っています。

 

 

☆中綿

ダウン…言わずもがな、軽量で保温性の高い中綿。

Coreloft…濡れると保温性が失われるダウンの弱点を補うため、アメリカ陸軍絡みで開発された素材。2種類ありますが、Coreloft Compactと比べ、Coreloft Continuousの方が暖かいです。

 

 

☆重量

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軽いものから順に並べてみました。

330g未満が軽量なモデル、400g以上が重いモデルということで、色分けしています。

 

軽い3モデルは表生地がArato 10D(デニール)、中綿はNuclei FL以外ダウンです。

Ceriumは軽量・携帯性を重視したモデルです。Nucleiは化繊の中綿で保温性は多少Ceriumに劣るものの、化繊の中綿で濡れに強いモデルです。それぞれ表生地はAratoの10デニールの糸を使用しており、かなり薄い生地になっています。

 

330~375gのモデルは通気性・ストレッチ性などの機能性を重視したモデルが多くみられます

通気性を重視しているのがProton、ストレッチ性を重視しているのがAtomです。Agriumの立ち位置は良くわからないのですが、ダウン使用している割に値段が抑え目なので、(街着として?)割と戦略的なモデルなのかなと勝手に思っています。

 

400g以上のモデルは、寒冷かつ運動量が低い場面での使用が想定されています

私はAtom ARを持っていますが、行動中に着るとかなり暑いです。Thorium AR, Nuclei SVはAtom 使用したことがありませんが、重量と素材から察するに、Atom AR以上に保温性があるでしょう。

 

表地にGore-Texを使用したモデルは800g以上と重いです。これは中綿の量が多く、表地に重いGore-Texの生地が使われているためです。

 

 

☆保温性

これに関しては寝袋のような明確な基準がありません。

自分が持っているAtom ARとCerium LTに関して言えば、保温性はほとんど同じです。

 

表地の防風性も体感温度に影響するので一概には言えませんが、ウェアのコンセプト、中綿量からするに、以下のような感じかと思います。

 

 

Proton LT<Atom LT<<Nuclei FL<<Cerium LT<Atom AR≦Agrium<Thorium AR<<Nuclei SV<<<<Atom Parka, Fission SV

 

通気性重視のProton LT

ストレッチ重視のAtom LT

軽量・保温性比重視のNuclei(化繊)、Cerium(ダウン)

バランス性重視のAtom AR、Agrium、Thorium AR

保温性重視のNuclei SV、Atom Parka、 Fission SV

 

正直Atom AR、Agrium、Thorium ARあたりの保温性の差は良くわかりません。

コンパクトなAgrium、かさばるけど安くて使いやすいAtom AR、表地が丈夫なThorium ARという感じでしょうか。どれか1着持っていればいいと思います。

 

 

 

☆価格

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3万円台、4万円台、それ以上で色分けをしてみました。

3万円台は中綿が化繊かダウン(750fp)4万円台はNuclei SVを除いてダウン(850fp)、9万円以上はアウターがGore-Texと、ハッキリ分かれました。

 

3万円台のインサレーションは他ブランドと比べてもそれほど高くなく、この価格帯が充実しているアークテリクスのインサレーションジャケットは結構手を出しやすいのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

③アクティビティ別での選び方

長くなりましたが、②で整理した情報をもとに、どのような視点でインサレーションジャケットを選ぶべきかをまとめます。

 

インサレーションジャケットの使用が想定されるアクティビティは下記の通りです。

 

トレイルランニング(夏季)

高山登山(夏季)

・クライミング(夏季)

・街着(冬季)

・スキー

・高山/雪山登山(冬季)

・クライミング(冬季)

 

下に行くほど高い保温性が必要になります。

それぞれのアクティビティに必要な特徴をまとめてみましょう。

 

トレイルランニング(夏季)…通気性・透湿性

高山登山(夏季)…軽量性・保温性

・クライミング(夏季)…ストレッチ性

・街着(冬季)…防風性、防寒性

・スキー…防風性、防寒性

・高山/雪山登山(冬季)…より高い防寒性

・クライミング(冬季)…より高い防寒性

 

こうなります。

では、①でまとめた特徴をベースに、どのモデルが最適化を当てはめてみます。

 

 

トレイルランニング(夏季)…通気性・透湿性

モデル名 重量 アウター生地 中綿
Atom LT 345 Tyono 20D(東レ) Coreloft コンパクト(60g/㎡)
Atom LT Hoody 375 Tyono 20D(東レ) Coreloft コンパクト(60g/㎡)
Proton LT 340 Fortius Air 20 Coreloft コンパクト(60~80g/㎡)
Proton LT Hoody 375 Fortius Air 20 Coreloft コンパクト(60~80g/㎡)

中綿が化繊で、60g/㎡と少なく、なおかつ通気性のある表生地を使用したモデルが適しています。個人的にこの中で選ぶならProton LT(フードなし)です。

 

高山登山(夏季)…軽量性・保温性

モデル名 重量 アウター生地 中綿
Cerium LT 280 Arato 10D(東レ) ダウン(850fp)/Coreloft(80~100g/㎡)
Cerium LT Hoody 305 Arato 10D(東レ) ダウン(850fp)/Coreloft(80~100g/㎡)
Nuclei FL Hoody 325 Arato 10D リップストップ(東レ) Coreloft Continuous(65g/㎡)

夏季の高山登山では、ほとんど夜間にしかインサレーションジャケットは使用しません。最低気温0℃までならCerium、もう少し最低気温が高ければNuclei FLのチョイスが良いのではないかと思います。

 

・クライミング(夏季)…ストレッチ性

モデル名 重量 アウター生地 中綿
Nuclei FL Hoody 325 Arato 10D リップストップ(東レ) Coreloft Continuous(65g/㎡)
Atom LT 345 Tyono 20D(東レ) Coreloft コンパクト(60g/㎡)
Atom LT Hoody 375 Tyono 20D(東レ) Coreloft コンパクト(60g/㎡)
Atom AR 425 Tyono 30D(東レ) Coreloft コンパクト(60~120g/㎡)
Atom AR Hoody 475 Tyono 30D(東レ) Coreloft コンパクト(60~120g/㎡)

生地にストレッチ性のあるAtomが候補に挙がります。軽量で、表地にリップストップの生地を使用しているNucleiもよいかと思います。

 

 

・街着(冬季)…防風性、防寒性

モデル名 重量 アウター生地 中綿
Agrium 330 Arato 15D(東レ) ダウン(850fp)
Agrium Hoody 365 Arato 15D(東レ) ダウン(850fp)
Atom AR 425 Tyono 30D(東レ) Coreloft コンパクト(60~120g/㎡)
Atom AR Hoody 475 Tyono 30D(東レ) Coreloft コンパクト(60~120g/㎡)
Thorium AR Hoody 490 Arato 30D(東レ) ダウン(750fp)/Coreloft(80~140g/㎡)

まあ正直街着なんて何でもいいと思いますが…

(というかVeilanceか24ラインから選ぶべきだと思いますが……)

個人的に挙げるなら上のモデルです。ThoriumはAtom ARより汎用性が低いのでおススメしません。Agriumは正直良くわかりません。このモデル買うくらいならTheNorthFaceでもいいじゃんと思います。

 

・スキー…防風性、防寒性

モデル名 重量 アウター生地 中綿
Cerium LT Hoody 305 Arato 10D(東レ) ダウン(850fp)/Coreloft(80~100g/㎡)
Atom AR Hoody 475 Tyono 30D(東レ) Coreloft コンパクト(60~120g/㎡)
Nuclei SV Hoody 600 Arato 15D リップストップ(東レ) Coreloft Continuous(不明g/㎡)
Alpha Parka 805 Gore-Tex ダウン(850fp)/Coreloft
Fission SV 890 Gore-Tex Coreloft Continuous(65g/㎡)

私はAtom AR、Cerium LTそれぞれをゲレンデで使用したことがありますが、このくらい保温性があればまあ十分だと思います。ただ、スキー用のウェアの方が正直暖かいです。外側に丈の短いシェルを着ているせいかもしれませんが、隙間から風が入ってきます。

(節約のために)敢えて山用のギアをスキーで使うならばアリです。

 

Alpha ParkaとFission Parkaをスキーで使うのはオーバースペックだとは思いますが、おそらく相当暖かいでしょう。

 

 

・高山/雪山登山(冬季)…より高い防寒性

・クライミング(冬季)…より高い防寒性

私は晴れているときに雪山登山を5回くらいしたことしかないので何とも言えませんが、モデル名にSV(SeVere weather)とついているモデルが適しているのではと思います。

 

 

 

まとめ

私は以下のように使い分けています。

 

夏山…Cerium LT Hoody

春・秋…Proton LT(フードなし)

冬の中強度ではAtom AR Hoody

 

最初の1着として買うのであれば、厳冬期(スキーなど)の使用を想定していないのであれば、、Nuclei FL(Fast & Light)が重量・保温性のレベルが高く、安価なのでよいと思います。より防寒性を重視するのであれば400g前後のモデルを、防寒性と軽量性の両方を重視するのであればCerium LTかAgriumを買いましょう。

 

氷点下の寒い日にはAtom AR、Nuclei SVあたりがコスパ的にもちょうどよいのではないかと思います。

 

他ブランドをここまでまとめる気にはならなかったのですが、外生地と中綿の種類・目付をこの表に当てはめて、どれを買うべきかの指針にしていただければと思います。

 

終わり。