舞城王太郎

「愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちにみなそろって幸せになってほしい。それぞれの願いをかなえてほしい。暖かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。僕は世界中のすべての人たちが好きだ。名前を知ってる人、知らない人、これから知ることになる人、これからも知らずに終わる人、そういう人たちを皆愛している。なぜならうまくすれば僕とそういう人たちはとても仲良くなれるし、そういう可能性があるということで、僕にとっては皆を愛するに十分なのだ。世界中の人々、皆の持つ僕との違いなんてもちろん僕はかまわない。人は皆違って当然だ。皆の欠点や失策についてすら僕は別にどうでもいい。何かの偶然で知り合いになれる、ひょっとしたら友達になれる、もしかすると、お互いにとても大事な存在になれる、そういう可能性があるということで、僕は僕以外の人全員のことが好きなのだ。一人一人、知り合えばさらに、個別に愛することができる。僕たちはたまたまお互いのことを知らないけれど、知り合ったら、うまくすれば、もしかすると、さらに深く強く愛し合えるのだ。僕はだから、皆のために祈る。祈りはそのまま愛なのだ。」-『好き好き大好き愛してる』

 

福井か金沢か忘れたけれど、電車で舞城王太郎の生地を通りながらこの本を読んだ。北陸はいつも雨が降っている。久しぶりに徹夜をして、頭の中に浮かんだのはこの文節だった。日常生活がつらいことばかりかもしれないけれど、皆の幸福を願って、自分のことをあまり顧みず、幸せな人だけを見つめていくことで苦しさを忘れることができる。誰か一人を愛することはまだできないかもしれないけれど、僕は他人に祈りを捧げることで愛する気持ちを表すことができるのだ